価値観の衝突で協力が反目に…
最近、発達障害の当事者たちが集まる自助会を主催しているAさんから、印象深いエピソードを聞いた。Aさんは会の活動をさらに広げるため、新たに「発達関係者(当事者と支援者)に限定せず、多様な価値感を持ったお客さんが気軽にくつろげるお店」をオープンしようと考えていた。そしてこのお店は現在定期的に営業している。この構想時、自助会に長く参加してくれているBさんはアイデアに共感し、「私も運営に携わりたい」と参加意思を示してくれたそうだ。
AさんはBさんの意思表明を嬉しく思い、協力して開店に向けた役割分担など話し合っていた。しかし同時に、AさんはBさんに対して、言動やSNSの投稿の中に気になる点を感じていた。それは障害者に対する配慮に欠ける用語の使用だった。Aさんは慎重に「店の運営メンバーとして参加してもらう以上、言葉の配慮をお願いしたい」と伝えた。
これにBさんは強く反発。「私はずっと障害者のことを考えて敢えて発言してきた」「世の中はきれいごとで回ってはいない。差別的な言葉が使われていることも事実」と自分の主義主張を展開し、結局「私の思いを理解してくれないなら、もういい」と言い残してAさんと通じているSNSをブロックしてしまったという。
当初Aさんは「別個の人間である以上、お互いの主義主張の相違は仕方ない」と思っていたが、今になって「Bさんは自分とは異なる理解で伝えたかった思いがあったかもしれない。今の自分ならもう少し丁寧に理解しようと歩み寄れたのではないか」と私に打ち明けてくれた。この話は、発達特性が絡む人間関係の複雑さと脆さを象徴している。
発達特性と人間関係の難しさ
発達障害を抱える人の中には、人間関係が苦手な人もいる。その一因として「理想への固執」が挙げられる。この理想には以下の特徴がある。
①自分の都合で成立する限定的な解釈がなされる
②意に沿わない指摘を否定的に捉える
当事者にとっては「なぜ相手は私の期待通りに反応してくれないのか」という怒りが生まれ、それが「相手が私を傷つけた」という理解に変わっていく。
客観的にみると「自分が一方的に相手に期待をかけ、それが叶わず腹を立てている」のだが、この主体の逆転に気付いてもらうのは難しい。Bさんの場合も、お店の運営への参加を「自分の思いや価値観をそのまま受け入れてもらえる場」という理想を持っていた可能性がある。だからAさんの「言葉遣いの修正」という一般的には「当たり前の配慮」のお願いが、その理想を揺るがすものに映り、強い拒絶反応を引き起こしたのだろう。
ただAさんはお店を「多様なバックボーンを持つ不特定の人が安心して集まれる場」にしたかった。現実で良好な人間関係を築ける人は、相手の反応を見ながら自分の状況を理解し、やり取りの中で建設的な意見を述べることができる。一方で、傷ついたり怒ったりなど感情的な反応をとってしまい、このせいで長い間かけて築いた関係が一瞬で壊れてしまう人もいる。
期待が外れた場合の着地のさせ方
一部の発達障害当事者は、生まれつきの脳の特性により、期待から外れた出来事が起きた際に臨機応変な対応が難しくなるときがある。自らを守ろうとする本能的な反応なのか、無理筋な正当化をしたり腹を立てたりという否定的な反応が優位に働き、結果、人間関係に支障をきたしてしまう。AさんがBさんに言葉遣いを直してほしいと伝えたのは、店の雰囲気をより良くするための配慮だったはずだ。しかしBさんにとっては、それが「自分の存在を否定された」と受け止め、対話の余地がなくなってしまった。
もちろん長年かけて構築した関係であれば、丁寧な説明で理解してもらうことは可能だ。仮に相手が受け入れがたい主張であっても、背景を分かりやすく、客観的に、時間をかけて説明することで理解はされやすくなるだろう。同じ説明を繰り返すことも有効だ。肉親に対してならそういう対話の努力もときに必要だろう。
Bさんも説明を尽くす事で「自分の主義主張を無条件に認めてもらえる場ではない」と気づける可能性もあった。ただ残念なことに、肉親以外の大人同士のコミュニケーションでは、気力・体力、時間の制約から、医療や福祉の現場でもない限り時間をかけた説明やは省略されがちなのが一般的だ。
発達特性のある人で、「自分の希望を持ちつつ、相手の反応を見て修正する」ことを自らの気づきで学べた人は幸せだ。報われない努力があることも認めつつ、それでも相手と共通の目標に向かって前向きに取り組む姿勢、これは自分に対する愛情でもあり、望まない結果がえられなくとも理不尽な怒りに発展しにくい。
最初から期待をしない手も
自分が固執の罠に陥らないためには、「目の前の相手にとって、自分の希望を叶える義理はない」という前提を自身に腹落ちさせることだ。その上で、期待を最小限に抑えつつ前向きに関わっていく姿勢が大切だ。特に発達特性を持つ人との交流では、特にこのマインドセットが鍵になる。
今回のエピソードのように店舗の運営は互いの理解を深める場だった。しかし期待のずれから生じる衝突で長年かけて築いた共感や理解が崩れてしまう。Bさんのようなケースに遭遇した時、無理に説得しようとせず、相手の意思を尊重しつつも境界を引く勇気が必要だ。
Aさんが今「Bさんの思いを理解してあげたかった」と振り返っているが、これは相手を尊重する優しさの表れだと思う。誰もが皆Aさんのような心境になれるわけではない。自分の心の余裕と相手との今後を含めた関係維持の重要性を踏まえて、手を差し伸べるか、線を引いて見守るかを判断していくことが重要だ。
