読書感想「薬に頼らずうつを治す」

つぶやき

最近、『復職後、再発率ゼロの心療内科の先生に「薬に頼らず、うつを治す方法」を聞いてみました』(亀廣聡・夏川立也著、日本実業出版社)という本を読んだ。著者の亀廣聡医師は、兵庫県西宮市にあるボーボット・メディカル・クリニックの院長であり、リワーク(職場復帰)専門の心療内科として知られている。2013年の開業以来、1800人を超える復職支援を行い、出版当時(2020年6月)時点で復職後再発率0%を維持していた。

本書は、心療内科の医師と患者の対話形式で構成されており、読者は自分が診察室にいるかのような強い没入感を味わうことができる。医学的根拠に基づいた内容でありながら、ストーリー仕立てで読み進めやすい点が特徴である。

以下に、本書の核心を5つの視点でまとめてみた。うつ状態で苦しんでいる人、あるいは周囲に悩む人がいる人にとって、一つの視点を提供できれば幸いである。

1. うつ病診断が増えている背景

多くの人が「うつ病」と診断され、抗うつ薬を処方されている。しかし本書では、抑うつ状態を厳密に6種類に分類している。①双極性障害、②大うつ病性障害(いわゆる「うつ病」これだけ抗うつ薬が有効に作用する)、③抑うつ体験反応(発達障害などとの併存を含む)、④昇降性抑うつ状態、⑤統合失調症に伴う抑うつ状態、⑥薬剤性抑うつ状態である。

本書によると亀廣氏が自分のクリニックに転院してきた患者540例を分析した結果、②のうつ病性障害はわずか2例(0.37%)に過ぎなかった。このデータは、世間で「うつ病」と呼ばれている状態の多くが、実は異なる病態であることを示唆している。実際のうつ病患者は外見からも特徴があるそうだ。髪はボサボサ、女性であれば化粧をしていない、問診票を最後まで記入できない、冬でもサンダルに素足、笑顔が不自然などが挙げられる。(これだけでうつ病と診断するわけではなく、本人・家族・職場の3方向からの聞き取りを総合して時間をかけて診断すると亀廣氏は言う)

一方、多くの医療現場では患者側が「うつっぽいんですけど」と訴えれば、医師がそのまま「うつ病ですね」と診断し、患者の多くに0.37%にしか効かない抗うつ薬を処方するため、治療が長期化する構造が生まれている。

こうした過剰診断の背景には、製薬会社のマーケティング戦略がある。1999年に生まれた「うつ病は心の風邪」というキャッチコピーは、うつ病を身近な病気として広く認知させることに成功した。同時に、会社帰りに立ち寄りやすい駅前クリニックが全国に乱立した。

結果、抗うつ薬の市場規模は2005年の790億円から2022年には1500億円超と17年間で約2倍に拡大した。うつ病は問診と薬の処方・安静指示だけで済むため回転率も高まり、病院側は時間短縮と収益向上が図れる。そして多くの患者は薬を飲み続けても改善せず、通院を繰り返す悪循環に陥ると亀廣氏は分析している。

2. うつ病→双極性障害?

他院で「うつ病」と診断され抗うつ薬を飲んでもよくならず、亀廣氏のクリニックで再度診断した結果、転院した患者の60%が双極性障害II型というデータは興味深い。この障害は中枢神経のバランスが崩れ、気分の上下の波が健常者に比べいびつな形になる。気分が上がっていても意欲が伴わない状態が続き、うつ病と診断されやすくなるのだ。

双極性障害の患者に抗うつ薬を投与すると、かえって躁転を誘発する。そこで薬の種類と量を増やしその数が10種類になり、他転院して亀廣氏のクリニックに辿り着いたときには「よくぞ生きていてくれましたね」というほど憔悴しきった患者もいたそうだ。こういう患者はまず薬を抜くところから始めるそうだが、離脱症状の苦しさから「薬をもらえる病院に行く」と離れてしまうケースも少なくないようだ。

なお亀廣氏はうつ病以外の患者に対して、漢方薬は有効だとして処方しており、薬の使用自体に全面的に反対しているわけではない。それでも「製薬会社の販売戦略がこうした誤診を助長した一因だ」とメンタルヘルス患者には薬さえ処方すればよい、という考えに警鐘を鳴らす。

3. 薬に頼らない診療スタイル

さて、薬に頼らない亀廣氏は患者に対しどういう診療をするのか?回復の第一歩は、ストレスの質を正確に見極めることである。達成感ややりがいを感じる「良いストレス」(eustress)は、適度に頑張る方向へ自分を導く原動力となる。一方、何かを我慢し続けなければならない「悪いストレス」(distress)は、心身に悪影響を及ぼすため、積極的に解消すべき対象である。

亀廣氏のクリニックでは、この区別を患者に丁寧に説明し、気づきを与える。悪いストレスへの対処法として、①ゆっくりとした呼吸をしながら「今ここ」に集中するマインドフルネス、②おでこやお腹などの身体感覚を意識する自律訓練法、③ストレスそのものに対処するコーピング④ストレスの感じ方を客観視するセルフモニタリングを導入している。

コーピングとセルフモニタリングが興味深かったので追記する。
ア.コーピング:大きく二つのタイプがある。一つは積極行動型であり、ストレス原因そのものを解決することに重点を置く。例えば「現在の仕事量が自分のキャパを超えているので、会社に業務量を減らすか業務内容の変更してもらうよう求める」がそれに当たる。もう一つは代替思考型であり、ストレスを楽しい・前向きな感情へ切り替える視点転換を重視する。例えば「飛び込み営業は嫌だが自分の経験値が増えて成長できる」と考え方を変えてみる、である。
イ.セルフモニタリング:どんな場面で、どんなことにストレスを感じるのかを、言葉や点数で記録する。これにより、自分のストレスのパターンが明確になり、具体的な対処が可能になる。例えば「上司から小言を言われた時のストレス度合いは4点、でも小言を聞いている間ホクロを数えると気がそれて1点」、である。

4. 仕事面以外ですること

人間には概日リズム(体内時計)という重要な機能がある。毎朝決まった時間に起き、朝日を浴び、夕方以降はブルーライトが照射されるパソコンやスマートフォンの使用を控え、夜更かしをしないことが基本である。睡眠薬を投与しても改善しない患者の多くは、このリズムが乱れていることが原因である。

食事面では、納豆やキムチなどの発酵食品、くるみや青魚などのオメガ3脂肪酸を積極的に摂取し、ジャンクフードや菓子類に使われるトランス脂肪酸を避けるよう指導される。また「がんばりすぎない」範囲で運動を継続することが強調されている。適度な運動は、脳の神経細胞の新陳代謝を促し、セロトニン分泌を高める効果が薬物療法を上回るとされる。

メンタル不調に陥りやすい人は、「べき思考」や完璧主義の傾向が強い。ミスを必要以上に大きなものと捉えたり、根拠のない悪い結末を想像したりする癖がある。亀廣氏は「物事は適当でいい」「曖昧さを許容する」マインドセットを強く勧める。

5. 今まさに休職中・休職を考えている人へ

私は過去に4ヶ月間会社を休職した経験がある。当時は「1日も早く復帰しなければ給料が出ない」「生活がどうなるかわからない」という強い焦りが常にあり、曖昧さを許容する発想など全く持てなかった。メンタルクリニックで処方された薬を飲んで寝ている時間を除けば、復職への不安がいつも頭にちらついていた。

当時この本は出版されていなかったが、もし出会っていたら、もっと冷静に自分の状態を分析し、異なるアプローチで心と身体を整えられたかもしれない。しかし本書を読んで改めて思うのは、休職中や休職を検討中は、自分の身体と心を根本から見直す絶好の機会だということだ。

亀廣氏のクリニックの睡眠薬・抗不安薬ゼロ、抗うつ薬も極めて少数で、復職後の再発率0%というのは極端に聞こえるかもしれないが、重症例を除けば、生活習慣の徹底、ストレスの質の見極め、認知の癖の修正という地味だが確実なアプローチで、脳と心は驚くほど回復するという実例を示してくれる。

もしあなたが、現在休職中で「1日も早く復帰しなければならない」という焦りや「職場に戻って働けるだろうか?」という不安を感じていたり、休職を検討しているが「休むのは甘えではないか?」と躊躇しているなら、まずは「べき思考」の手放しから始めてほしい。

そして、朝日を浴びてリズムを整え、納豆キムチを食べ、一日5回腹筋をし、悪いストレスを一つずつ記録しては解消方法を考えてみる。そうした小さな積み重ねが、薬に頼らない本当の回復への道を開く。この本は、そんなあなたに「生きていいんだ」という許可と自信をくれる一冊だ。

タイトルとURLをコピーしました