発達当事者として共感できたものを紹介します
私は子供の頃は親に買ってもらえなかった事もあるのですが、漫画をたくさん持っている友達の家に行きろくに話さず本棚の漫画を読み漁るほどASDみの強い漫画少年でした。漫画ってどこか非日常的なところがあるのですが、そこに私の感性がビンビンに反応してしまったのでしょう。今はそこまでのめり込む事はないのですが、スマホの漫画アプリで長い通勤時間のささやかな楽しみで読んでいます。というわけで今回は私の独断で発達系の人が興味を持ちそうな漫画をいくつか紹介します。
1.僕の妻は発達障害(ナナエトリ)
推奨:①発達当事者の女性②発達当事者を持つ身内③毒親育ちの人
一言:発達当事事者が共感できるエピソード満載の王道漫画(20-30代向け)
夫(定型発達で漫画家)の北山悟(サトル:30)の目線で、妻で発達障害のある知花(チカ:32)が生活や仕事で苦労を重ねながらも家庭や社会に適応しようと成長していく姿を描くストーリーです。
悪気はないのだけど言動が職場の人の癇に障りいじめのような扱いを受けたり、こだわりやマルチタスク凹に由来する家事に異常に時間がかかるなど、発達障害当事者やその家族であれば共感できる様々な種類の困難が出てくるので、「辛いのは自分(当事者)だけじゃないんだ」と孤独感が減り、「自分が無理せず、周囲に負担をかけないレベルの努力」の勘所が見えてくると思います。TVドラマ化もされた(タイトルは「僕の大好きな妻」に変更)ほど多くの人に発達障害を知ってもらうきっかけになった作品だと思います。
また発達当事者あるあるで毒親育ちのエピソードがあるのも見逃せません。いずれ理解が深まっていく内容にはなっていますが、忘れ物や片付けのできなさなどで親に否定されながら育った子供に大きな心の傷ができ、大人になった後もわが子をダメ出しし干渉しようとする親に対し、心の距離を取って自分を守ろうとする態度に胸が痛みました。敬遠するそれでも定型と発達との溝は家族でも埋められない現実を突きつけられます。むしろ家族だからこそ溝が深まるのかな?とも思いました。ともあれチカはたくさん失敗しそんな自分に直面して凹むのですが、夫の悟はそういうチカを受け入れて対処法を学び改善案を出し、チカもそれを受け入れ実践して改善する、という①夫婦愛と②「PDCAを回す」姿勢で物語が進む展開に漫画を読んだ当事者は希望と前向きさを感じると思います。これを読んで当事者には希望をもってほしいし、社会に対しては少数派(マイノリティ)の苦労を理解しようとする動きが進めばいいなと思いました。
2.リエゾン-こどものこころ診療所-(ヨンチャン)
推奨:①発達当事者の子供を持つ親②発達障害医療従事志望者③発達障害者や生活困難者への福祉支援者
一言:発達障害者が陥りがちな生活・家庭環境や医療の実態を知れます(20-40代向け)
発達障害を抱える児童精神科医と研修医が発達障害の子供、親と向き合うストーリーです。漫画はそもそもページの範囲で結論を出すものですが、この漫画を読めば発達障害とは一定の期間で何かを克服するのものではなく、医師と患者が共に長い時間をかけて粘り強く付き合っていく障害だと思い知らされる作品です。実際に各話も一定の希望の見える結論が出るのですが、それでも「この子、そして親の今後はどうなるのだろう?」と余韻が残るというかリアリティを感じさせる内容です。
そして発達障害当事者には付き物の、学習障害(書けない・読めない・計算できない)、2次障害(愛着障害・境界知能など)、生活環境(児童虐待・学校でのいじめ・親の精神疾患・ヤングケアラーなど)、定型だと普通にできる事の困難さ(習い事、就職活動など)についてもしっかり突っ込んだ作品です。これもTVドラマ化された漫画ですね。
発達障害の困りごとを医療・福祉目線で解決しようとすると、困りごとがいかに多種多様で複雑(だから発達障害どおしでも分かり合えない事があるくらい)、しかも脳機能単独の問題ではなく、養育された家庭・教育を受ける学校環境と強い関係があり、各課題の個別解決が難しくて「結局困りごとを解消するのは無理なのでは?」という暗澹たる思いが頭を巡るかもしれません(というか実際消えませんし)。でも逆に主人公のように使命感を持って医師を目指すようになど「自分のやりたいこと、得意なことで生きていく」という前向きな割り切る決意にもつながるんじゃないかな?と私は思いました。(実際医師や企業家には発達特性の強めの人も多いと聞きます)
先ほど「リアリティを感じさせる内容」と書きましたが、きっと作者は医療や福祉現場に行って取材・当事者聞き取りをしてるんだろうなと思いました。推奨に「医療従事者・福祉支援者を目指す人」と書いたのは、医療・支援をするのには一筋縄にはいかないあまりに生々しい実態があるからです。少なくとも私は働くのはしんどいなと思いました。(自ら発達特性があるのに医療従事者として患者当事者の困りごとをに向き合おうとする方は敬意しかありません)
3.あなたがしてくれなくても(ヨンチャン)
推奨:①夫婦全般②セックスレスで悩む人③離婚を考えている人④結婚式がゴールと思っている人
一言:他人との共同生活って何?を考えさせられます(30-50代向け)
セックスレスに悩む2組の夫婦が主人公で、片方は妻が、片方は夫がパートナーにレスられています。レスられた方もレスするほうも、それぞれの苦悩と悩み、そして夫婦という枠組みの中で「何を妥協し何を貫くのか?」を考えなきゃいけないよ!というのがテーマなんじゃないかなと勝手に私は思っています。だって結婚って戸籍上一緒になるための手続きでしかなく、別々の人間が夫婦関係を維持するためにはそういうイメージを考えないままパートナーを放置すると、気付かぬ内にパートナーの心はあなたから離れて離婚されちゃいますよ的な隠れた怖さを感じる内容です。これもTVドラマになりましたね。
この作品が面白いのは単純に「レスする方が悪い」という図式ではなく、レスする方にも感情移入するだけの理由があるという点です。となるとそもそも考えが異なる他人どおしがお互いの生きたいように生きるって無理なんじゃ?という結婚自体の意味を考えさせられるわけなんですね。そして読み手の価値観によっても感想が分かれる作品だと思います。
例えばレスられた妻(吉野みち、32歳。結婚して5年、レスになって2年)を見て、男性は「夫婦の絆よりも子供を作る行為に執着しているように感じて欲情しなくなっているのでは?」と思うかもしれないし、女性は「なぜ夫は結婚したのか?女性が子供のいる家庭を夢見て何が悪いのか?ひどい!」と思うかもしれません。
あと各登場人物の設定もよくできています。吉野みちの会社の先輩である新名誠(36歳:妻にレスられ)は会社では上からも下からも頼られる優秀な社員です。家庭では残業で休みも不安定な妻に配慮し、毎日疲れて帰ってくる妻のために料理を作り「今日も遅くまでお疲れ様。ごはん作っといたよ」と優しい言葉をかけます。一見ナイスな旦那なのですが、実は毒親育ちでわがままな父に隷属するように従う母を見て「相手に合わせなきゃいけないんだ」「自分が我慢をすればいいんだ」という歪んだメンタルが出来上がってしまい、仕事の疲労や子供ができた場合のキャリアの中断がネックでセックスを拒否する妻に文句を言わないのではなく「言えない」精神状態になっているんですね。
脚本に発達障害の要素は感じられませんが、「他人や自分の関心事に以外に無関心」な特性や「得意不得意の差が激しい」という特性が夫婦のすれ違いになっている点は注目です。
みちの夫の陽は、自分の関心事にのめりがちなタイプで、妻のみち以外の人に興味を示しません。かといってみちの「夫婦仲を考えて」「子供はどうするの?」という真摯な問いかけも、面倒に感じてテキトーに受け流してしまう。どこまでも自己完結で人に真剣に向き合う姿勢がないASDな部分を感じさせます。悪い人ではないのですが、みちとは価値観が合わないんですよね。そして新名誠の妻楓も家事の苦手さで劣等感を抱き、そのイライラを夫にぶつけ、夜の夫婦生活をぞんざいにしているようにも見えます。そしてそれぞれの夫婦関係が悪化するに連れてとっていく行動は…ここからは本編をお楽しみください。
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